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脳神経外科
診療の基本
・患者、患者家族が受けてよかったと思える治療を提供することを第一に考えています。
・ハイブリッド手術室(術中血管撮影や高精細3D-CBCT)、ナビゲーションシステム、各種モニタリングなどを駆使し、安全で適切な手術を行っています。
・最新の血管撮影装置を使用した脳血管内治療を積極的に行っています。
・救命救急センター(救命救急科)と連携し、24時間体制で緊急の中枢神経系疾患の手術に対応しています。
疾患
<脳血管障害>
脳血管障害とは?
脳血管障害(脳卒中)は、癌および心臓病とあわせて日本人の三大死因と言われています。また一命を取り留めたとしても、運動麻痺や言語障害が残り、介護が必要な状態になってしまうことがしばしばあります。実際、要介護度5の方々のもっとも多い原因疾患は脳卒中で、認知症や骨折を上回っています。
脳血管障害は、くも膜下出血、脳出血、脳梗塞の3つに分けることができます。石川県に11ヶ所ある一次脳卒中センターの過去3年間(2019-2021年)の調査では、県内では毎年新たに、くも膜下出血が148-163名、脳出血が515-625名、脳梗塞が1457-1807名の方に生じています。当院には、毎年くも膜下出血が約30名、脳出血が約100名、脳梗塞が約200名が入院されており、脳神経内科と脳神経外科で治療をさせていただいています。
また、このような急性発症の脳血管障害以外にも、もやもや病、脳動静脈奇形、硬膜動静脈瘻といった脳血管の疾患に対しても治療を行なっています。
くも膜下出血
くも膜下出血は、脳動脈瘤が破裂したことによって起こります。くも膜下出血を発症すると、死亡率は30-40%、後遺症が残る場合が30%程度といわれ、非常にこわい病気です。破裂を繰り返すことで予後が悪化します。再破裂を防ぐ方法は2種類あり、ひとつは開頭クリッピング術、もうひとつは脳動脈瘤瘤内塞栓術(血管内手術)です。
~開頭クリッピング術
全身麻酔下で開頭を行い、手術顕微鏡を用いて脳動脈瘤に到達し、瘤の頸部にチタン製のクリップをかけて瘤内への血流を遮断します。開頭術という比較的体への負担が大きな手術ですが、クリップが正しくかかれば再破裂の可能性はほぼなくすことができる治療です。
~脳動脈瘤瘤内塞栓術(血管内手術)
1990年台前半に米国で始められた手術です。大腿動脈から細いカテーテルをいれて、脳動脈瘤まで届かせます。そのカテーテルを通してプラチナ製のコイルを瘤内に送り、瘤腔をコイルで埋めてしまうことにより血液を入らなくして出血を防ぎます。本邦では1997年より行われるようになりました。この治療方法の最大の利点は、開頭を行わなくて良いので体への負担が小さく、リハビリテーションへの移行が早いことです。
当院では、どちらの治療も常時施行可能です。最近はくも膜下出血の方の6−7割に対して血管内手術で治療を行なっています。しかし動脈瘤の形態や、周囲血管との関係によっては、開頭クリッピング術の方がより安全な場合もあり、患者さんごとにより適切な治療方法を選択して治療にあたっています。
脳出血
1960年代は、日本人の死因の第一位は脳卒中でした。当時は脳卒中のなかでも脳出血が多く、さらには非常に大きな出血のものが多かったことが高い死亡率と関係していました。1970年代後半から、塩分制限や高血圧治療が広まるにつれて、徐々に脳出血の発症頻度と死亡率は減少しつつありますが、今でも脳出血の大部分は、高血圧が原因です。脳出血は脳実質の中に出血をおこし、出血した部分の脳は傷んでしまいます。傷んだ部位に応じた症状がでます。具体的には手足の運動麻痺やしびれ、言語障害、視野障害、認知機能低下などですが、出血が非常に大きい場合は意識障害を呈し、生命の危機が生じることがあります。患者の状態、血腫の大きさや部位から手術の適応を判断します。大きな出血ほど脳の傷みも強く、血腫を取り除いても麻痺などの障害が残る可能性が高いのが現状です。当院では、術後はなるべく早期にリハビリを開始して、機能回復に努めています。
脳梗塞
脳の血流が何等かの原因で途絶えることにより、血流が途絶えた部位の機能が失われます。残念なことに、梗塞(壊死)となった脳組織は血流が再開しても機能を回復させることは困難です。しかしながら比較的短時間に血流を再開させることができれば、脳梗塞にならないか、なったとしても梗塞の範囲を狭くすることができます。血栓が原因で血流が途絶えた場合の代表的な治療法はtPA静注療法と血栓回収療法の2つです。
~tPA静注療法
発症から4.5時間以内に、tPA(組織型プラスミノーゲンアクチベーター)という血栓を溶解する薬を点滴で注射するだけで、つまった血管が再開通し、脳梗塞になることを防ぐことができます。
~血栓回収療法
tPA静注療法は日本では2005年より行われるようになりました。この治療により劇的な改善を示す患者さんもでてきました。しかし、比較的太い脳血管がつまると、tPAの注射だけではなかなか再開通しないこともわかってきました。実際、脳に入るもっとも太い内頚動脈が詰まると、tPA治療で再開通するのは10%前後しかないと言われています。そこで、血管内手術により脳血管をつまらせた血栓を機械的に取り出す取り組みが始められ、2015年には、tPA静注療法に加えて血管内治療で血栓を取り出すと、患者さんの予後が明らかに良くなることが示されました。どちらの治療も時間との戦いです。tPA静注療法は、発症から4.5時間以内の場合に限って治療を行うことができます。血栓回収療法は、原則発症から6時間以内とされていますが、MRIなどの評価でまだ脳梗塞が完成しておらず、救える脳があると判断されれば、多少時間がたっていても治療を行う場合があります。
~血栓回収を行った症例~
70代の女性の方が、昼食の後片付けをしていたところ、突然台所で倒れたため、家族が救急車をよんで当院へ搬送されました。到着時は言葉を発することができず、右上肢がまったく動きませんでした。
MRI撮影をすると、左中大脳動脈が閉塞していました。しかし、脳梗塞はまだ完成しておらず、直ちにtPAを点滴しながら血管撮影を行いました。血管撮影では、中大脳動脈は閉塞したままであり、血栓回収術を施行したところ、開始から20分後に血栓は取り除かれ再開通できました。患者さんは直後より右上肢が動き出し、翌日には言葉も出るようになり後遺症なく退院されました。
当院では、脳血管内手術治療専門医が2名常勤しています。2020年4月以降は、血栓除去療法がすみやかに行える体制が整い、現在、石川県内で最も多くの血栓回収治療を行う施設です。
未破裂脳動脈瘤
脳ドックや、頭蓋内検査(CT、MRI)で、破裂していない脳動脈瘤(未破裂脳動脈瘤)が発見されることがあります。未破裂脳動脈瘤全体でみると、破裂率は年間1%以下と言われており、見つかったからといって全例で治療を行う必要はありません。ただ、瘤が大きかったり、形がいびつだったり、破裂しやすい部位にあったりする場合には、患者さんと相談のうえ破裂予防の治療を行う場合があります。破裂瘤と同じように、開頭クリッピング術か、血管内手術かどちらかで治療が行われます。くも膜下出血をおこした破裂脳動脈瘤は、一般的に瘤の中にコイルをつめる治療のみが行われますが、未破裂動脈瘤の場合は、ステント併用治療や、最近ではフローダイバーターによる治療が行われています。
~ステント併用の瘤内塞栓術
瘤の入り口が広く、瘤内にコイルをいれても出てきてしまう形状の動脈瘤には、ステントをおいて治療を行います。ステントを置くことによって瘤の間口を狭くすることができ、コイルを安定して置くことができます。
~フローダイバーター治療
さらに最近は、瘤内にコイルをおくことなく瘤を血栓化させる治療が行われるようになりました。フローダイバーターという、非常に網目の細かいステントを瘤ができている動脈におくと、瘤内への血流が減少し、徐々に血栓化が進み、最終的には瘤は縮小していきます。動脈瘤の中にカテーテルやコイルを入れることなく治療ができること、母動脈を温存できること、など利点の多い治療ですが、全ての動脈瘤に行えるわけではありません。
頚部内頸動脈狭窄
脳梗塞の原因のひとつとしてアテローム血栓によるものがあります。代表的なものは、頚部の内頚動脈にプラーク(粥腫)が形成され、内頚動脈が閉塞したり、狭窄部位で形成された血栓が脳内にとんだりして脳梗塞をおこします。高度の内頚動脈狭窄に対しては、内頚動脈内膜剥離術や、頚動脈ステント留置術が行われます。
新しい血管撮影装置の紹介
当院では、2022年3月に血管撮影装置を更新しました。Philips社製のAzurion 7 B20/15という機種です。Biplaneの血管撮影装置であり、従来の装置よりもより低いX線照射量で高品質の画像を撮影できることが最大の特徴です。稼働してから2ヶ月(2022年5月末)が経過しますが、これまでの評価では、以前の機種と比較して被ばく線量が36-88%程度に低減されています。これは患者さんに生じる可能性のある放射線障害を最小限に抑えることに寄与できると考えています。
<脳腫瘍>
脳腫瘍に対する脳神経外科の役割は適切な手術による全摘出が基本です。ただ腫瘍の部位や性状によっては患者・患者家族と相談の上、部分摘出や診断のための生検術を行う場合があります。
また、再発しやすい腫瘍に対しては肉眼的な全摘出が行われた場合でも追加の治療が必要になることがあります。代表的な治療は放射線治療と化学療法(薬剤による治療)ですが、各分野の専門家と相談の上、最も適切と考えられる治療をご提案させていただきます。
脳腫瘍手術の基本は全摘出ですが、手術の目的は患者QOL(Quality of Life:生活の質)の向上・維持です。患者の生活(職業や趣味など)と真摯に向き合い、ベストな治療を提供できるよう努めています。
<顔面痙攣および三叉神経痛>
顔面痙攣は片側の眼瞼や口角に自分の意志とは関係なくピクツキが生じるものです。ピクツキが持続して目が開けられなくなる場合もあります。
三叉神経痛は片側の歯や頬に起きる突発性の電撃通が典型的です。齲歯(虫歯)と間違われる場合もあります。
脳幹からでる神経(顔面神経および三叉神経)が圧迫されて症状がでます。圧迫の原因は主に正常な血管です(まれに腫瘍などの血管以外が原因となることもあります)。症状自体は放置しても命を脅かすものではありませんが、程度(個人差があります)によっては日常生活に不自由をきたすものです。
圧迫血管を神経から離す手術によって、90%以上の方が治癒しています。再発する場合や初回手術で治癒しない場合もまれにありますが、ご相談の上、再手術をお勧めする場合があります。
<頭部外傷>
多くは救急搬入であり、救急救命医とともに緊急で頭蓋骨々折、頭蓋内出血、脳挫傷の有無などを頭部CT、X線で診断し、各種損傷に対する治療を行っています。緊急で開頭血腫除去術が行われることもあります。
頭部打撲後、頭蓋内で徐々に血腫が増大し、1-3ヵ月後に手術が必要となる慢性硬膜下血腫という疾患もあります。
<水頭症>
水頭症は病態により交通性水頭症と非交通性水頭症に分類されます。また最近では手術で治せる認知症として正常圧水頭症が注目されています。それぞれの病態の水頭症に対して脳室腹腔短絡術、腰椎腹腔短絡術および内視鏡第3脳室底部開窓術などの手術を行っています。
<脊髄病変>
脊髄に発生した腫瘍や血管病変に対して、整形外科と連携し手術を行っています。
<小児脳神経外科>
小児脳腫瘍、頭部外傷、血管障害、先天性疾患としての脊髄髄膜瘤、水頭症などに対しては小児内科、小児外科と連携し手術を行っています。
<その他の疾患>
上述した疾患以外にも脳神経外科で手術の対象となる疾患は多々あります。当院では熟達した専門医と最新の設備により、様々な疾患に対して安全かつ適切な手術治療を提供しています。中枢神経系疾患の手術に関して気になることがございましたら、遠慮なくご来院ください。