診療科・部門のご案内

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消化器外科

トピックス

内視鏡手術について

 前述したように、消化器外科では内視鏡を用いた手術を積極的に取り入れています。この手術は、内視鏡手術または腹腔鏡下(ふっくうきょうか)手術といわれています。消化器内科の医師が行う胃内視鏡(胃カメラ)や大腸内視鏡(大腸カメラ)は胃の中、大腸の中に内視鏡を挿入し、診断、治療を行います。消化器外科では内視鏡手術は腹腔内(おなかの中)、胸腔(胸の中)に内視鏡を入れて手術をします。
 従来の手術では、おなかを大きく切り開いて胃や大腸などを切除する方法が一般的でした。しかし、傷が大きいため、手術後しばらくの間、激しい痛みがありました。また、はっきりと目立つ傷跡が残ります。

 1980年 代の後半に腹腔鏡下手術は始まりした。腹腔鏡とは、太さ5~12mmの棒状のテレビカメラのことです。手術室内のテレビ画面に腹腔内の映像を大きく鮮明に映し出す装置です。最近はハイビジョン映像で映し出され、拡大することができるので、肉眼で見るよりもはるかにきれいに血管、神経、リンパ節,筋肉が観察できます。外科医はその画面を見ながら5~1mmの特殊な手術器具を使って,精細な出血の少ない手術をおこないます。当科では手術の第一選択は腹腔鏡下手術です。食道切除、胆嚢摘出術、虫垂切除術は原則腹腔鏡下手術を行います。
 現在、腹腔鏡だけでなく、腹腔鏡手術に用いる他の道具も改良・開発が進みました。より高度な手術が行われるようになっています。腹腔鏡下手術は現代技術の最先端医療機器を使用した外科手術といえます。

1)腹腔鏡下手術に用いる道具類

 a. トラカール
 腹壁を貫通し、腹腔鏡、手術器具を腹腔内に挿入するための筒です。太さは5~12mmです。腹腔内の空気が漏れないように工夫されています。最近は3mmのものも使用しています。

トラカール

 b. 鉗子
 5~12mmまでの棒状の器具です。手元のハンドルで操作すると、先端が開閉します。先端の形状は切る、摘まむ、剥がすなどの目的に合わせ、工夫されています。また、電気メスや血液やリンパ液を吸うための吸引管もあります。最近は太さ2,3mmの鉗子を使うこともあります。

鉗子

 c. 超音波凝固切開装置
 太さ5mmの器具です。先端の金属部分が1秒間に4~5万回振動し、組織との間で発生する摩擦熱で血管や脂肪を切離します。

 d. ベッセルシーリングシステム
 これも太さは5mmです。組織を挟んだあごの間に電流が流れ、挟まれた組織を固めてしまう装置です。太さ7mmまでの血管が止血されます。

2)腹腔鏡手術の傷あと

 左下が開腹手術での傷あとであり、右下が腹腔鏡下手術での傷あとです。あなた自身や家族が手術を受けるときに、どちらを選びますか?

図2

3)手術の模式図

 下図のように、二酸化炭素を注入し、お腹を膨らませ、手術を行うための空間(ワーキングスペース)を作って手術を行います。東京ドームをイメージしてみて下さい。

4)実際の腹腔鏡下手術の様子

 通常、術者、助手、スコーピスト、器械出しナースの4名で行います。麻酔科医師を含め、全員がテレビ画面を見ながら,手術を行いますから、進行状況などの把握が容易で、スタッフ全員で一致団結して手術を行っています。

5)腹腔鏡下手術の長所

 傷が小さいということから生まれる以下のような長所があります。

 a. 痛みが少ない。
 何と言っても、おなかを大きく切らないことから、患者さんの手術後の痛みが非常に少ないことがもっとも大きな長所です。

 b. 傷あとが小さく美容上優れている。
 当科ではさらに傷の数を減らすため、臍の切開創だけで手術をする単孔式手術を胆嚢摘出術、虫垂切除術に取り入れています。また、3mmの鉗子を用いると、傷は全く見えなくなります。

 c. 手術後早くから歩くことができます。
 傷が小さいことにより痛みが少なく、早くから歩くことができます。これは高齢者では非常に重要なことで、十分なリハビリを行うことで、若い人とほぼ同じように退院できるようになりました。

 d. 手術後早くから食事を食べることができます。
 お腹の中を密閉した状態で手術を行うので、臓器が空気にさらされず、術後の胃や腸の動きの回復が早いことが証明されています。おなかを切る手術と比較して早くから食事が開始できます。絶食期間が短いことは早い回復を促すことが分かっています。

 e. 日常生活や仕事への復帰も早くなります。
 前述したように、痛みが少なく、回復が早く、退院も早いことから社会復帰も容易になります。しかし、時には「せっかく手術をしたのだから、この際ゆっくり休んではどうですか?」と勧めることもあります。日本人は本当にまじめです。

 他にも次のような長所があります。

 f. 精緻で出血の少ない手術ができる。
 何度も繰り返していますが、ハイビジョンで見る映像は本当にきれいです。さらに拡大してみることができ、細い神経、血管、リンパ節や筋肉がよく見えます。そのため、神経、筋肉を温存し、機能を損ねない手術ができます。また、前述した手術の器具の進歩で非常に出血も少なくなりました。

 g. テレビ画面に映っている画像はすべて記録できる。
 テレビ画面の画像はハードディスク、DVDなどにすべて記録されます。後で何度も見返して、反省することにより上達が早まります。若い外科医の教育にも非常に役立ちます。

6)腹腔鏡下手術の短所

 a. 手術が難しい。
 これまでとは全く異なる手術法であるため、いくつかの難しい点があります。
  ① テレビ画面という平面像を見ながら手術するので、奥行きが分かりにくい。
  ② トラカールが腹壁に固定されているため、そこから入れる手術器具の動きが制限される。
  ③ 狭い空間の中で臓器を展開するのが、困難である。
  ④ 非常に細かい丁寧な手術操作を要するために手術時間が長くなる。

 これらの問題に対し、日本内視鏡外科学会では技術認定制度を作りました。
 その規則の第1条は以下のようになっています。

 内視鏡外科手術は、低侵襲的であるなどの利点から、消化器一般外科、呼吸器外科、小児外科、産科婦人科、泌尿器科、整形外科など、多数の領域の手術に応用されているが、内視鏡下の手術野で、特殊な器具を用いて行う手術であり、高度な技術が要求される。この日本内視鏡外科学会技術認定制度(以下本制度)は、定款第4条第3号に基づき、各学会の定める専門医制度とは異なり、これら各関連領域において内視鏡手術に携わる医師の技術を高い基準にしたがって評価し、後進を指導するにたる所定の基準を満たした者を認定するもので、これにより本邦における内視鏡外科の健全な普及と進歩を促し、延いては国民の福祉に貢献することを目的とする。

 この技術認定の試験は手術ビデオを提出し、複数の審査員により審査されるものです。合格率は20~40%とかなりの難関です。
 当科には伴登宏行、角谷慎一、北村祥貴、寺井志郎、大畠慶直、山口貴久、林憲吾の7名の技術認定医がいます。

 さらに北陸の内視鏡外科手術のレベルを上げるため、技術認定医を育成しています。手術を受ける際は、担当医が技術認定医であるか確認した方が良いと思います。

 b. 腹腔鏡用の特殊で高額な器具が必要である。
   腹腔鏡手術はいろいろなモニター、電気機器、鉗子などを使うので、費用がかかります。しかし、現在、ほとんどの腹腔鏡手術は保険がきくので、高額療養費制度を使えば、患者さん自身は大きな負担はありません。ただ、医療費の高騰につながるといった意見もあります。

7)当科で施行している腹腔鏡下手術

 食道切除術

 胃切除術

 胆のう摘出術
胆のう摘出術1
胆のう摘出術2

 肝部分切除術
肝部分切除術

 大腸切除術
大腸切除術

 胃、十二指腸潰瘍穿孔に対する手術
胃、十二指腸

 虫垂切除術
虫垂切除術

 脾臓摘出術
脾臓摘出術

 直腸脱に対する手術
直腸脱に対する手術

 などが行われています。

 もし上記の外科手術治療法に関してお悩みの方、疑問点をお持ちの方がいらっしゃればいつでも御相談いただければ幸いです。外科手術法が日進月歩しておりますので、悩まれることも多いと思います。悔いの残らない治療をうけるために、御一緒に考えていきましょう。

〇ロボット支援内視鏡手術について

2018年4月からロボット手術が12種類の手術において保険が適応となりました(図1)。胃がん手術もこの中の一つです。医師が離れたコンソールという操作部位から遠隔で、ロボットを操作して手術を行います(図2)。正式名は「ロボット支援内視鏡手術」といい、内視鏡手術の1つです(図3)。

2000年の初めに始まった内視鏡手術は、小さな傷から内視鏡カメラや手術器具を入れて行う手術です。傷が小さい、術後の痛みが少ない、回復が早い、入院期間が短いという利点があり、画期的な手術法として、普及してきました。ロボット支援内視鏡手術は、従来の内視鏡手術をさらに進化させることができると考えられています。

その特徴は

1.ロボットの先端に取り付けられた手術器械は人間の手首のように自由に曲げることができます(図4)。今までは難しかった縫合、結紮が自由な方向で行うことができます。

2.ロボットの先端は術者の手元の動きの1/10の精度で動きます。簡単にいうと人間の10倍細い操作ができます。米粒に字を書くことができます。さらに手元が振るえても、ロボットの先端は振るえないようになっています。

3.ロボットのカメラは三次元で見えます。立体的に見えるということです。さらに肉眼よりも細く見えます。正確な画像情報を取得できるため、より安全かつ侵襲の少ない手術が可能となります。

当科では、2016年10月から胃がんに対してロボット支援内視鏡手術を導入し、2022年12月までに200例以上施行してきました。現在は、ロボット外科学会専門医(Robo-Doc国内B級)を有する角谷慎一が担当しております。ロボット支援内視鏡手術に興味のある方はご相談ください。

図1.jpg図2.jpg図3.jpg図4.png